研究概要 |
本年度は、まずこの研究の最も重要な資料となるアリストテレスの『魂について』(De anima)の研究を継続した。その成果の一部は、翻訳と訳注、及び少し詳しい解説を付して『アリストテレス 魂について』として京大学術出版会から刊行されている。なおこの書についての詳しい注解は現在さらに進行中である。 それと平行しつつ、「心の哲学」におけるいくつかの基礎概念の成立と変容の過程を分析した。まず現代の心の哲学における重要概念である「志向性」について、現代哲学での基本的問題を見届けたうえで、この概念の問題性の源泉が、ブレンターノによるこの概念の定立の背景にあったアリストテレスの魂論とデカルト的な心の哲学との緊張関係にあることを解明した。その一部を「志向性-現在状況と歴史的背景(1)」という論文にまとめた。また「対象」「客観」(Objekt)という概念についても、その直接の源泉であるスコラ哲学でのobiectumが登場する初期文献およびその前史を構成する新プラトン主義者やキケロの著作の検討をおこない、obiectumという言葉には、ストア派と新プラトン主義者に由来する「表象」的捉え方とアリストテレスの「アンティケイメノン」という「実在する相関対象」的理解が潜在していることを確認し、そのことの意義を再考した。さらに「感情」(emotion, passion)という概念についても、現在古代ギリシアのパトスという概念を手がかりに解明を進めている。
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