本研究の目的は、仏教認識論・論理学に関するディグナーガの最初の体系的な論書である『ニヤーヤ・ムカ』の文献学的研究を完成させ、その読みやすい現代語訳を提供すると同時に、その内容の論理学的検討を行うことにある。同書は『因明正理門論』という漢訳でのみ現存し、サンスクリットで書かれた原文は散逸したままであるが、報告者は本年度もオーストリア学士院へ出かけ、最新のディグナーガ関係の写本研究の実状を調査し、その成果を十分に生かして、『ニヤーヤ・ムカ』のテキスト再校訂・現代語訳を行いつつある。 平成13年度国際研究集会派遣研究員として、6月21日-23日ポーランドで開催された「インド論理学に関する国際セミナー」に共催者として参加し、本研究の成果の一部を発表した。 9月6日-8日に一橋記念講堂で開催された本特定研究の調整班が主催する国際シンポジウムに参加し、海外の古典学研究の現状を海外からの参加者が報告するパネル・ディスカッションの司会を務めた。 12月15日京都キャンパスプラザで行われた「古典学の再構築」A02「本文批評と解釈」班の研究会においてこれまでの研究成果の一部を発表し、参加した多くの異分野の研究者から貴重な提言を得たことは、領域横断的な本特定研究の一部としての本研究にとって、本年度の特筆すべき成果である。特に、中国古典の研究者からは、仏教漢文の読み方から自由な、読みやすい「漢文書き下し」を提供するよう要請され、具体的な教示を得た。アリストテレスの『レトリケ』とインド論理学の「説得の論理」との間の類似性を示唆する具体的な証拠を把握したことも、本年の大きな成果である。
|