本研究の目的は、『ニヤーヤ・ムカ』(因明正理門論)の本文批評とその内容の論理学的解釈である。前者に関しては、ディグナーガの晩年の主著『プラマーナ・サムッチャヤ』自注に対するジネーンドラブッディの副注のサンスクリット写本の転写テキストから、目下のところ漢訳でしか存在しない『ニヤーヤ・ムカ』のサンスクリット断片を多数回収し、原本復元へ一歩近づくことが出来た。それらを含めたクリティカル・エディションの完成には後一年かけたいと考えている。出版可能な現代語訳は既に完成している。目下の課題としてはその英訳を行いつつある。仏教論理学の論理学的解釈に関しては、ギリシャ以来の西洋論理学の伝統に対する造詣の深い京都産業大学の林隆教授とのディスカッションから多くのものを学んだ。「帰納法」「演繹法」「アブダクション」「帰謬法」などの西洋論理学の諸概念が仏教論理学の解釈に際して有効であるが、自ずから限界のあることが分かった。 本特定研究の「本文批評と解釈班」(関根代表)の本年の共通課題として旧約聖書学、インド学、中国学それぞれの本文批評と解釈の方法論について比較検討した。その際、インド学の方法論について研究発表し、最終報告書には東北大学の後藤敏文氏、北海道大学の吉水清孝氏とともに「インドにおける本文批評と解釈の方法論」について共同執筆した。その結果、インドにおいて本文批評に関する独自の方法論が生まれなかった背景に、聖典の筆写より口頭伝承を第一義的とするという文化的伝統があることを指摘できた。 なお、平成14年12月にバンコックで開催された国際仏教学会で「仏教論理学」のパネルを共催し、研究成果の一部を発表した。
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