上記の課題のもと、古代思想としてはアリストテレスの哲学を、17世紀の思想としてはデカルト哲学をとりあげ、今年度は、まず第一に、アリストテレスの哲学の認識論と自然学の分析を古代哲学の専門家(山口義久大阪府立大学教授)の助力を仰いで手掛けた。そこでとりわけアリストテレスの知覚論と彼の目的論的自然観の内実の検討を行った。この体制でのアリストテレス哲学研究を来年度も継続させ、アリストテレスの学問体系の概念的枠組みとその特質の解明を押し進める予定である。第二に、デカルトの哲学については、まず『精神指導の規則』と『世界論』をとりあげ、そこでデカルトがアリストテレス主義に直接的ないし間接的に言及している箇所を追求・調査し、その分析を行った。そこで特に、『精神指導の規則』の段階でデカルトは、「学問論」についてはこの時期よりアリストテレス主義に対する批判的見地を展開しながらも、「認識論」に関してはアリストテレス主義の枠組みを脱してはいないことや、『世界論』になるとデカルトは、アリストテレスの自然学に対する根本的な批判を展開しており、これはアリストテレスの自然学の解体と新たな自然学の呈示を意図したものであることなどを確認した。さらにデカルトの主著『省察』をとりあげ、これは、一つには、アリストテレスの哲学(認識論)を念頭におき、それを退けそれに代わる新たな哲学を確立することを主眼としたものであることを確認した。来年度はこれらの予備的・考証学的研究を踏まえ、アリストテレスの思想がデカルトにおいてどのように受け止められ超克されたかを全体的に明らかにする予定である。なお、本研究に関連することとして「古典教育研究会」に出席するとともに、そのオーガナイザーである月村辰雄東大教授と研究交流を行った。また同氏の同僚である塩川徹也東大教授と17世紀思想、特にデカルトとパスカルの思想について研究交流を行った。
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