昨年度に続いて、相対主義的な古典解釈の立場から、古典の伝承と受容を可能にした価値観や世界観を追究した。今年度はとくに神話をジェンダー視点から読みなおすことによって古代を再認識する作業を行なった。調査と執筆に時間を割いたため、研究代表者の成果は論文1点となったが、ディオニュソス神話における女性の役割や女性信者の意味について歴史的関係を含めた考察を行ない、この面からエウリピデス『バッカイ』の解釈を行なった。また昨年度の課題からの発展的継続として、古代の身体観についてアリストテレスを中心に調査中である。現在のところまだ公表する段階に達していないが、近代のtwo sex modelと対比される形で古代にはone sex modelが支配的であったという知見をこれまでに得ており、今後さらにこれについて研究を深める予定である。 研究分担者は18世紀英文学において「サッフォー」の表象がどのような意味で用いられたかを調査・考察した。その成果を調整班研究発表会で「18世紀におけるサッフォーたち」として発表し、サッフォーの名が女性同性愛者への偏見を含む社会的眼差しを映し出すことを明らかにした。また、18世紀に支配的であったオウィディウスのサッフォー像に対する同時代の女性詩人たちの反発について考察を行ない、その成果の一つとして、メアリ・ロビンソンのソネット集『サッフォーとパオーン』に焦点を絞った論文を発表した。今後の研究では18世紀女性詩人たちにとってのサッフォーの意義についてさらに考察する予定である。
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