日中幼学書の一、孝子伝を主テーマとし、年来手掛けてきた孝子伝をめぐる諸論考と併せ、『孝子伝の研究』として2001年9月に刊行することが出来た。『孝子伝の研究』は、I II III部から成るが、本書の柱となるI部一章「孝子伝の研究」、二章「二十四孝の研究」の二つが、平成十三年度における主な実績である(共に書き下ろし)。以下、その二つの内容のあらましを報告する。 まず一章「孝子伝の研究」は、古く中国で成立しながら、後に全て散逸した所謂古孝子伝(逸文)について、その概要と実態を報告し、次いで我が国に伝存する二種の孝子伝、即ち、陽明本、船橋本孝子伝について、その書誌、内容紹介より始めて、古孝子伝との対比による両孝子伝の特徴、文学史的価値を闡明しようとした。さらに敦煌本孝子伝を取り上げ、それが1957年刊行の「敦煌変文集』編者による、二系統五種類の相異なる文書を組み合わせて作られた、人為的な書物であることを確認し、孝子伝としての扱い方を論じた。また、二章「二十四孝の研究」においては、文学史的に二十四孝を孝子伝の末裔と位置付け、孝子伝から派生した二十四孝が、三系統から成る複雑な実態を有することを明らかにした。さらにII部「孝子伝図の研究」は、後漢以来の孝子伝図を始めて集成、テキストとしての孝子伝との対照を可能にするための基礎を築くことを目指した。 論文「孝子伝図の研究-宋・遼・金を中心とする-」は、上記II部二章三節の礎稿となったもので、「王莽覚書-変文と軍記-」は、孝子伝以外の幼学と我が国の軍記物語との関連を扱ったものである。 孝子伝についての研究は、例えば2002年3月9日付日本経済新聞の朝刊文化欄が「現代に蘇る孝子伝日米中で共同研究の動き一」と題する記事に取り上げ、注目する所ともなった。なお、研究分担者三木雅博を含む、幼学の会による『孝子伝注解』の平成十四年度刊行の準備が進行中である。
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