本研究においては、日中両国において、文学・思想・芸術・民俗など幅広い文化面に大きな影響を及ぼしたと考えられる幼学書『孝子伝』を主たる研究対象として取り上げた。『孝子伝』は中国古代の孝子たちの説話を集めたテキストで、そこには「孝」の思想を縦糸にして、親子、兄弟、夫婦、君臣など、様々な人間関係が織りなすドラマが描かれており、既に奈良時代までには日本にもたらされていた。本研究では、この「孝子伝」について、初めての本格的な研究を実施し、奇跡的に日本に残存している二種の「孝子伝」テキスト(陽明文庫本、船橋本<京都大学附属図書館蔵>)の翻刻、本文校勘、注解を研究分担者、研究協力者と共同で進めると共に、日中両国の数多くの「孝子伝」に関連する文献資料の蒐集やテキスト整備を行い、その成果を踏まえて、幼学としての「孝子伝」の、成立・展開から受容にわたる日中における文化史的意義を多方面から学際的に分析、解明した。また中国や米国に伝存する図像資料の蒐集を行い、平成13年度8月に中国寧夏ウイグル自治区固原県の固原博物館において、北魏期の墓に収められた漆棺の孝子伝画像の調査を行い、また、平成13年度12月と平成14年度8月に二度にわたり、アメリカのミネアポリス美術館、カンサスシティー・ネルソン・アトキンズ美術館、ボストン美術館、ハーバード大学ハーバード・イェンチン図書館等に調査旅行を実施し、各美術館所蔵の北魏期の孝子伝画像石の調査、並びに写真撮影等を行い、従来の日本・中国・欧米のこれらの図像資料に関する研究の誤りを大幅に修正することができた。これらの成果を踏まえ平成13年度から14年度にかけて、以下に掲げる著書2点、論文5点を公刊した。特に『孝子伝の研究』『孝子伝注解』の両書は、今後『孝子伝』が日中両国の文化研究に活用されて行くに際しての基本的文献として大きな意義を持つものと考える。
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