研究概要 |
航海案内書は地理的な空間認識を前提にしており、その意味で単なる実用書にとどまらず、作成当時の人々の世界像を表現している。本研究は、いわゆる「大航海時代」にも重なる重要な時代である15,16世紀の時期に西アジア・イスラーム世界で作成された航海案内書に表現された世界像を探り、あわせてヨーロッパや東アジアなど他地域に見られる世界像と比較検討することによって当時の世界像の再構築を試みることを目的にしている。 具体的には、16世紀初頭にオスマン朝(1299-1922年)で編纂された地中海航海案内書『キターブ・バフリエ』Kitab-i Baφriyaを中心的な分析対象とした。この書物は地中海における航海情報を詳細に述べるものであるが、あわせて、当時オスマン朝において知られていた、中国・東南アジアから大西洋に至る全海域についての解説を含んでいる。地中海のみならず、世界全体にわたる情報を提供するものであり、その意味で16世紀のイスラーム世界における世界像を伝える著作であると言えよう。オスマン朝のみならずイスラーム世界全体においても類書がまれであり、また多くの写本が作成され利用された貴重な書物である。16世紀に至るイスラーム世界における世界像の実相を明確にするためには、本書の多角的な分析が必須である。本年度は、2箇年計画の初年度として次の内容と手順で基礎的作業を行なった。 1.『キターブ・バフリエ』ヒジュラ暦932年本系写本の内容分析 世界の海域を解説する韻文序及び地中海を解説する本文を詳細に分析し、そこに現れる世界像を考察した。作業にあたっては、オスマン・トルコ語による原文と日本語訳のデジタル・データ化を行い、コンピューターによる分析を進めた。 2.15,16世紀のイスラーム世界における世界像に関わる文献を調査し、入手のうえ分析した。 3.15,16世紀の非イスラーム世界における世界像に関わる文献を調査し、入手のうえ分析した。
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