1.ソクラテスはさまざまな徳を善悪の知識に還元するが、その場合の知識とは認識だけを目的とした純然たる理論知ではなくて、医術などと同様、何かをつくり出す技術知である。このようなソクラテスの徳と技術知とのアナロジーがどのような意義をもち、どのような問題をはらんでいるかを、魂論の観点から掘り起こすと同時に、ソクラテスの立場における、技術の両価性という重大な問題に対して、プラトン、およびアリストテレスがどのような反応を示し、どのような理論を組み立てたのかを明らかにし、その成果を学会で公表した(関西哲学会シンポジウム、平成13年10月)。 2.これまで進めてきたアリストテレス『ニコマコス倫理学』全巻の翻訳、および訳注の作業をすべて完了した。原稿はすでに印刷にまわっており、京都大学学術出版会『西洋古典叢書』第二期の一冊として、平成14年7月に刊行される予定。現在、それの解説文を執筆中であるが、従来の研究よりも踏み込んだアリストテレスの伝記記述を試みるとともに、彼の倫理学の論述がどのような性格のものであり、また中庸理論など彼の倫理思想の主要な論点が倫理学一般の文脈においてどのような意義をもつものなのかを解説している。
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