本研究は、東アジアの出版機構研究を統一課題とする研究項目A01に属し、官刻・家刻・私刻・坊刻を問わず、明清時代の小学書出版の実態を明らかにすることを目指している。本年は明・方日升撰『古今韻会挙要小補』を取りあげ、その刊行に至る経緯について検討を加えた。本書は、官礼部尚書にまで昇った李維ていなる人物の委嘱を受け、方日升が編輯したもので、書名より知られる如く、元・熊忠の撰になる『古今韻会挙要』を校訂し、また増益したものである。本書は相当広く行われたらしく、我が国の各機関での所蔵も少なくない。しかし、各機関の目録の記載は一様でなく、「建邑書林余彰徳余象斗同刊本」「書林余泗川余文台同刊本」「京山周士顕建陽刊」など様々に記載される。ところが精査してみると、これらは封面、序の配列順等に異同はあるものの、みな同一版と思われる。刊行に際して付された李維ていの弟子で、当時建陽の令であった周士顕の万暦34年の「韻会小補引」によると、本書は周士顕がその刻書を余彰徳・余象斗に依頼した、いわば私刻本と考えられる。のちそれに「本衙蔵板」・「書林余泗川余文台同刊本」等の封面を付して売りに出したものと思われ、本書は私刻本が坊刻本化するという、当時の興味深い出版システムの一班を反映するものと思われる。また本年度は、官刻私刻を問わず、明代において小学書を出版した出版者のデータベースの構築を開始した。本データベースは、「明代小学書出版者目録」(仮称)として、来年度完成の予定である。
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