本研究課題は、特定領域研究「東アジア出版の研究」の計画研究のひとつとして、中国近世における小学書出版の状況を明らかにし、以て東アジア出版文化の全容の解明に寄与せんとするものである。 王朝体制下にあった旧中国において、小学はあらゆる学問の基礎学として位置づけられてきた。そのため、小学書の種類は時代の進展につれて増加の一途をたどり、出版という書籍の大量生産のための新たな技術が発明されると、その傾向はますます助長されるに至った。中国近世という時代は、庶民階級が識字層へと進出することを特色のひとつとするが、小学書はこの庶民の識字層への進出を促進する役割の一端を担い、近世特に明清代には大量の小学書が出版された。本研究課題は、特に出版機構の研究という観点からかかる興味ある時代の小学書出版状況の解明を企図するものであるが、平成14年度においては、『古今韻会挙要小補』と言う明代の刊行になる小学書の一種を取りあげ、当初家刻本として刊行されたものがのちその版権を移動して坊刻本として刊行されるに至るという、明代の出版状況のひとつの形態を明らかにし、近世中国における出版機構の研究に些かの寄与をしたものと考える。併せて内外の蔵書目録に基づいて、データベース「明代小学書刊行者目録」を作成した。本データベースに取り込まれた書名・著者・刊行者・刊年等を厳密に解析することにより、例えば小学書を出版している書庫の性格、家刻本か坊刻本かという、出版費用の出所の問題、さらにはその出版物の受容者の問題等、明代小学書の出版に関わる多くの問題について、一定の解答が得られることになっており、現在すでにその初歩的な分析の作業に着手しているところである。
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