本研究課題は、特定領域研究「東アジア出版文化の研究」の計画研究の一つとして、中国近世ことに明清時代における小学書の出版の状況を、近世を特徴づける指標の一つとも考えられる識字層の拡大、俗文学作品の出版の問題等と関係づけつつ解明することを企図し、本年度は「明代小学書刊行者目録」を補訂・完成し、その小学書部分のみを「明代小学書刊行者目録(小学書)初稿」として刊行した。 「明代小学書刊行者目録」は、官刻・私刻あるいは坊刻を問わず、一部でも小学書を刊行した記録のある刊行者について、その刊行者ごとに小学書を含む全出版物を採録した目録である。作成に当たっては、『明代版刻綜録』(江蘇広陵古籍刻印社)及び『中国古籍善本書目』(上海古籍出版社)を主たる依拠資料とし、そのほか『全明分省分県刻書考』(線装書局)及び『国家図書館善本書志初稿・経部』(台湾国家図書館)、また国内の各所蔵機関の図書目録を補助資料とした。今回刊行した「明代小学書刊行者目録(小学書)初稿」は、紙幅の関係から原「目録」中より小学書以外の出版物を除外したものである。原「目録」を多面的に検討することにより、小学書出版に関わる刊行者の性格等について種種明らかになるはずであるが、今回刊行の「初稿」を一見しただけでも、小学書出版に携わった刊行者がおおよそ240家、また、「海篇」類の字書等、実物を見なければ最終的に同定出来ないものも存在するものの、出版された小学書は約15、60種あることが明らかとなる。また、同一書を多くの刊行者が刊行する例のあるところより、当時の読者の志向を見て取ることが出来ようし、さらに寺院の出版物に明らかな傾向性のあることも一目瞭然である。見る角度を変えれば、なお色々興味あることが明らかとなろう。
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