本研究課題は、近世ことに明清時代における小学書の出版の状況を、近世を特徴づける指標の一つとも考えられる識字層の拡大、俗文学作品の出版の問題等と関係づけつつ解明することを企図したものである。平成14年度においては、『古今韻会挙要小補』と言う明代の刊行になる小学書の一種を取りあげ、当初家刻本として刊行されたものがのちその版権を移動して坊刻本として刊行されるに至るという、明代の出版状況のひとつの形態を明らかにした。また、研究開始当初より、「明代小学書刊行者目録」の編纂を計画してきたが、平成15年度には一応の完成を見、その小学書部分のみを「明代小学書刊行者目録(小学書)初稿」として刊行した。また、平成16年度には、上記目録に依拠して、「明代における非坊刻本小学書の刊行について」を公刊した。 「明代における非坊刻本小学書の刊行について」は、筆者の作成した「明代小学書刊行者目録」に基づき、明代において小学書を刊行した刊行者の中から特に営利を目的としない非坊刻本小学書の刊行者(非書肆刊行者)を取りあげ、その刊行書と刊行者の経歴を示して、一体どの様な人たちが小学書の刊行に従事したのか、その小学書刊行の実態の一斑を明らかにしたものである。明代に小学書を刊行した非書肆刊行者は現在のところ総計135家を把握している。その内訳は以下の通りである。 (1)進士 55家(2)挙人 11家(3)宗室 3家 (4)諸侯 2家(5)官吏 9家(6)生員 1家 (7)読書人 51家(8)個人名でない非書肆 3家 このうち、(1)・(2)・(5)・(6)は広い意味での官吏のグループであり、計76家で小学書の非書肆刊行者の半数以上を占める。これに(7)を加えた127家が同じく小学書非書肆刊行者の知識人層で全刊行者のおよそ9割を占める。また、明代の非書肆刊行者により刊行された小学書については、自編著の小学書及び父親をはじめとする縁者等の編纂した小学書の刊行の多いことを特筆すべき事項として指摘した。
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