研究概要 |
本年度は、標記の研究の遂行のため、中国広東省において資料収集と調査を行った。平成13年11月19,20両日には、中国広東省広州市の中山図書館(正式名称は「広州市孫中山文献館」、広州市越秀区文徳路)において、同館所蔵の広東省一円の族譜の閲覧ならびにその一部の写真撮影を行った。今回の資料収集は、珠江デルタ周辺地域における典型的大規模宗族が清代から民国期にかけて編纂した族譜の様式を確認することを目的として行ったものである。今回参照した族譜のリストは以下の通り。 京兆郡黎氏族譜(南海黎氏)・黎氏族譜(順徳)・蕭氏族譜(順徳)・祚昌長房家譜(順徳羅氏)・南雄黄氏族譜・東莞とう氏発祥祠世系・南雄とう氏族譜・興寧劉氏族譜・容奇関世澤堂家譜・順徳馬氏宗譜不分巻・東莞篁渓家譜不分巻(張氏)・新会県竹林里林氏族譜 これらの族譜のうち、一部は印刷されたものであり、一部は手書きのものであり、その編纂動機などを比較するための資料を得た。 また、広州市内での上記の文献資料収集に加えて、広東省海豊県において現代の族譜編纂事業についての聞き書き調査を実施した。この馬氏一族の族譜編纂事例は、近年中国東南部各地でみられるような、海外または香港在住の族員がイニシアティブをとった新しい族譜編纂事業の1例である。それは、外地にわたって財をなした者が故郷の同族の系譜ならびに祖先の事績についてつまびらかにしたいという意志に、編纂動機の始点を有するものだが、同時に地元の側でも、文革期の祠堂、族譜の破棄などにより失われた同族間の系譜知識や連帯感を、そうした外部からの経済的、理念的刺激を契機として、再構築しようとする動きと考えることができる。
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