研究課題
特定領域研究
まず、手書きの族譜と印刷された族譜の社会的機能を、広東省、海南省等で収集した族譜の事例をもとに比較考察した。手書きの族譜に共通しているのは、そこに記載された系譜関係等の情報を共有する人々の範囲が、あらかじめ閉ざされたものとして措定されており、より遠い族員や潜在的同族との間に新たな関係を築いたり発見したりする機能を負ったものではない点である。他方、印刷多部数型の族譜の編纂は、その編纂活動を通じて、それ以前には社会関係の不在であった人々もしくは社会関係が希薄であった人々の間に、新たな共通意識と社会関係を創出する機能を有していることが明らかとなる。「族譜」には、手書きによるただ一つの原本の筆記と多部数同時印刷による出版という2つの対極的な作成の方式が見いだされ、しかもそれがある程度まで時代や地域の偏差を超えて共存しているのは、単にそれが出版費用の問題などの便宜的理由によるものではなく、それらの様式が上で述べた2つの対極的な社会機能に対応しているからだと考えられる。次に、系譜記述の様式について収集した族譜類の分類を試みた上で、対極的な性格を示す海南省〓州市村話話者系の大型一枚布族譜と、海南省や広東省の宗親会組織が発行する現代的な宗譜との比較分析を行った。そして、今日進行しつつある宗族復興現象の特色を、こうした族譜の分析を踏まえて考察した。改革開放政策以降顕著となった宗族復興の諸活動は、宗族/宗親会間の断絶や異質性よりも、むしろ両者の連続性あるいは連動性を映し出している。香港をはじめとする外部社会との往来の活発化、地元経済の活性化等の展開は、両者の結びつきを一層密なるものにしつつあり、それに呼応して、各地の宗族や宗親団体が編み出す族譜も、より一層多様な体裁と用途をもつものとなりつつあることを明らかにした。
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東アジア出版文化研究 こはく(「東アジア出版文化の研究」総括班編、知泉書館) (印刷中)
ページ: 153-168
Studies on East Asian Publish Culture : Kohaku, edited by the office of the studies on East Asian Publish Culture (in print)
東アジア沿海地域における民俗文化再生過程の人類学的研究(三尾裕子編)(風響社) (印刷中)(仮題)
Cultural Anthropological Studies on the Revitalization Process of Folk Culture in East Asia, edited by Yuko Mio, Fukyosha Co. (in print).