設備備品費を以て購入した「中華族譜集成」「北京図書館古籍珍本叢刊」等および本学既存の史料から、出版をめぐる宋代官僚の動向、出版政策に関係する史料を調査・収集し、併せて他大学等でも関連史料を調査しこれを補強した。 特に南宋における、北宋士大夫の「文集」出版をめぐり派生した問題についての論争を、南宋士大夫の書簡史料中から収集し、北宋における政治問題が「文集」出版を契機に、南宋士大夫の議論の対象となることに注目し、宋代を通じて、政治と官僚士大夫社会に対する出版の役割と影響につき、展望する手掛かりをえた。 具体的には北宋仁宗朝において保守政治家呂夷簡の最も尖鋭な批判者であった范仲滝が、対西夏戦争(1038〜44)という国家的危機に際して、夷簡と和解したとする欧陽修撰「范仲淹神道碑」をめぐる范氏と呂氏との対立であり、南宋における欧陽修の文集(「欧陽文忠公集」)の出版にあたり、この論争が再燃している。出版の中心人物である周必大と朱熹との間の書簡を中心に当該の論争の分析を試みることを、基礎的な作業としたい。
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