より完備した「佐伯文庫旧蔵及現存書目録(漢籍之部)」を作成すべく、佐伯文庫関係の数種の目録を比較対照し統合整理する作業を進め、これによって作成した仮目録により、内閣文庫の漢籍目録では佐伯文庫本とされていなくとも、書誌学的、論理的にその可能性が存在するものを借覧し、推定の当否を確認した。この結果、30部にものぼる漢籍が、蔵書印により新たに佐伯文庫本と確定した。かくて『改訂内閣文庫漢籍分類目録』に記載される旧蔵者注記も完璧なものではでないことが明らかとなった。のみならず、佐伯文庫の旧蔵書は幕府への献上にあたってすべてに蔵書印が捺されたと考えられてきたのだが、実際はそうではなく、捺印漏れが少なくなく、捺印箇所も巻頭とかぎっていなかったことがわかった。しかも、捺印数はいかに大部なものであっても一箇所に限られていた。したがって、佐伯文庫では一部の書物としてあつかわれていたものが、内閣文庫に入って分割され、二部以上の書物扱いされた場合には、必ず迷子の佐伯文庫本がでることになる。佐伯文庫本には本来蔵書印など捺されておらず、いざ献上となって、捺印作業が倉卒の間におこなわれたに相違ない。しからば、蔵書印のみに頼った佐伯文庫本の同定作業は検討を要しよう。実際、先の30部以外の70部ほどの漢籍にも、蔵書印によりそれと確定することは難しくとも、佐伯文庫本である可能性が存することがわかった。 国会図書館においては、後に上野図書館をへて国会図書館となる新設の東京書籍館における和漢書の不足を補うべく、明治初年に、政府の肝いりで各県を通じて集められた旧藩校所蔵本のリストから、漢籍であって大分県献上分をリストアップし、これと『国立国会図書館漢籍目録』とを比較対照し、同一書の可能性のあるものについては借覧し、佐伯文庫本か否かを調査した。この結果、新たに8部の漢籍について、これまで知られていなかった佐伯文庫本であることが、その蔵書印から判明した。今後の調査事項は、リストアップされたにもかかわらず、国会図書館に所蔵されていることが確認されなかった漢籍の行方であろう。 大分県立図書館では新たに1部の佐伯文庫本が存在していることを確認した。なお、この調査の過程で、大分県立図書館所蔵の佐伯文庫本には異なる二つの出自があることが分かった。
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