研究概要 |
いわゆる佐伯文庫本には、幕府に献上されることなく佐伯藩で明治維新をむかえ、その後その多くが散逸した、筆者が非献上本と命名した一群が存在する。今年度は、そうした佐伯文庫の非献上本の検討・考察を中心に研究を実施した。 非献上本の一部は、すでに再渡海して中国にもどり、その一部が北京大学図書館・北京図書館をはじめとする北京の複数の大学・図書館・研究所に蔵されており、なかにはアメリカに渡ったものもあることが知られているが,今年度は、それ以外の、おそらくそれ以前に、現国会図書館の前身である東京書籍館に納められた、これも筆者により明治献上本と命名された一群の書物の全貌を明らかにし、その間の経緯、現存状況などを明らかにすることを目指した。 大分県から東京書籍館への納本は、明治八年十二月二十七日と翌九年三月三日の二度にわけておこなわれたが、研究の結果、佐伯文庫からの明治献上本は、明治八年分の三十一部だったことが明らかになった。このうち、漢籍は二十八部、三部は和書である。ただし、既に国会図書館に存在しないもの、なんらかの理由で蔵書印が捺されなかったものがあり、上記二十八部の漢籍のうち、「佐伯文庫」の印記が見え、なおかつ国会図書館に現蔵されているものは、二十一部に過ぎない。 以上の考察の課程と、江戸幕府への献上直後に作成された佐伯藩現蔵書の目録、『以呂波分書目』の著録状況とにより、佐伯文庫には和書も蔵されていたことが判明した。また、『以呂波分書目』と、昭和にはいって作成された『御蔵書目録』とにより、佐伯藩所蔵の和書の一端につき考察を進め、あわせて、大分県立図書館に現蔵される、洋書を中心とする佐伯文庫本の由来についても考察した。 なお、北京での調査は、北京大学図書館に中心を移し、引き続き実施しており、これまで未知であった佐伯文庫本も、続々発見されている。
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