研究概要 |
1.特定領域研究(A)第1回研究集会に参加し、「「和漢軍書」出版の思想史的研究-作者・読者・地域社会-」という題目で発表する機会を得た。この発表では、私がこれまで行ってきた『太平記評判秘伝理尽鈔』(『理尽鈔』)を軸とした日本近世の政治思想史研究の成果を報告した。加えて、『理尽鈔』『太平記』が、当時「軍書」と呼ばれていたという事実に着目し、日本近世社会において「軍書」がどのような意義を有したのか、さらに東アジア世界全体のなかで「軍書」出版はどのような位置を占めるものなのか、という問題提起を行った。 2.『理尽鈔』『太平記』を嚆矢とする「軍書」が、領主層から民衆までの各層にどのように読まれたかを明らかにすべく、社会各層の読書記録を掘り起こす作業を行った。大名家から農民(上層)までの読書記録を収集した。 3.収集した「軍書」の読書記録を分析して、「軍書」がどのように読まれたか、分析作業を開始した。具体的には、河内国の大ヶ塚の富農・富商であった河内屋可正の読書記録『可正雑記』の分析をし、可正が『理尽鈔』及びその関連書の他にも、いくつもの軍書を読んでいることを明らかにした。 4,武士層を中心に広く受容された『本佐録』の思想史的研究を行い、その思想的基盤が『理尽鈔』であることを明らかにし、論文「『本佐録』の形成-近世政道書の思想史的研究-」を執筆した。 5.今日、書物に着目した思想史・文化史が、私や横田冬彦氏らにより推し進められているが、これに至る現在までの思想史・文化史の研究動向を整理し、今後の研究を展望した書物(『展望日本歴史16近世の思想・文化』、青木美智男氏と共編)を編んだ。 6.当時広く読まれたと推定される「軍書」の版本・写本(あるいは活字本)を撮影・複写して収集する作業を開始した。
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