今年度は、朝鮮に伝来した漢訳西学書・天主教書の中でも、主に地図、並びに地理学・地誌学に関する書籍について考察を加えてきた。それら地図、地理学・地誌子に関する書籍の中で心、特にマテオ=リッチの著述した一連の地図『坤輿万国全図』、並びにアレニーの地誌学書『職方外紀』が朝鮮にどのように伝来・受容され、そして朝鮮で出版されていったのか、という問題について研究を行った。その中でも、今年度は『坤輿万国全図』と『職方外紀』の書誌内容を調査するため、日本国内に現存する諸版本の所蔵調査を行うと同時に内容の検討を行った。 マテオ=リッチ『坤輿万国全図』の所蔵調査の結果、以下のことが明らかとなった。宮城県図書館には、1602年の北京初版本と日本製の模写本が所蔵されており、内閣文庫、及び京都大学図書館にも北京初版本が所蔵されていることが明らかとなった。『坤輿万国全図』の日本製模写本については、日本国内各地に所蔵されているようであるが、今年度は特に、神戸市立博物館に所蔵されている「南波コレクション」の3点を調査した。なお、『坤輿万国全図』は、北京刊行の翌1603年に朝鮮に伝来して、当時の知識人等に好評を博していた状況が明らかとなった。ただし今年度、韓国で調査をした結果、初版本『坤輿万国全図』の所蔵は確認できなかった。しかし、1708年刊の銘記がある絵入り彩色された朝鮮製模写本がソウル大学校博物館に所蔵されていることが明らかとなり、かつ1945年以前までその所蔵が確認されていた同絵入り彩色された1708年刊銘記の『坤輿万国全図』を写真撮影した「写真本」がソウル大学校奎章閣に所蔵されていることが明らかとなり、現在その書誌内容の分析を行っている。『職方外紀』については、内閣文庫、静嘉堂文庫所蔵本を入手し、現在その書誌内容を検討している。
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