平成16年度は、イエズス会宣教師マテオ・リッチが1602年に製作した『坤輿萬國全圖』の諸版本に関する研究を行った。 これまで『坤輿万国全図』については、宮城県図書館、内閣文庫、京都大学附属図書館、並びにバチカン図書館に現存する原版本が、その初版本であるとの前提で研究が行われてきた。また、リッチがその翌年である1603年に作製した『両儀玄覧図』は、近年になって、韓国崇実大学校基督教博物館と中国遼寧省博物館に現存することが確認された。その結果、『両儀玄覧図』の地名表記や地誌的記載内容については、『坤輿万国全図』とほぼ同じであることが明らかとなった。 しかし、イベリア半島に記載する地名表記の相違が、『坤輿万国全図』と『両儀玄覧図』との間に見られることが調査の結果判明した。この相違点をもとにして、日本各地に現存する『坤輿万国國全図』を模写した屏風仕立ての彩色された模写本『坤輿万国全図』と比較検討した。特に模写本『坤輿万国全図』の中でも土浦市立博物館が所蔵する模写本『坤輿万国全図』は、日本列島の形状と地名表記の相違以外は、ほぼ原図を忠実に模写したものと定評のあるものであるが、これと現存『坤輿万国全図』と『両儀玄覧図』とを比較検討した結果、次のような結論を見るにいった。 イベリア半島にあるポルトガルの国名表記と、その説明文のみに注目したときに、最も古い記述の仕方をとっているのが、土浦市立博物館が所蔵する模写本『坤輿万国全図』であり、『両儀玄覧図』のポルトガル国名は、それとほぼ同じものである。そして現存する『坤輿万国全図』は、前記二点とは全く異なる表記である。そのため現存『坤輿万国全図』は、1602年に刊行されたものではなく、1603年に製作された『両儀玄覧図』よりも後年に一部改訂して刊行されたものであることが明らかとなった。
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