平成13年度〜16年度において、朝鮮に伝来した漢訳西学書・天主教書の研究、というテーマで研究を行ったが、そこで主な研究対象となったものは、漢訳西学書の中でも、特にイタリア人のイエズス会宣教師マテオ・リッチが1602年に製作した『坤輿万国全図』と、翌年に製作した『両儀玄覧図』である。 これまで『坤輿万国全図』については、宮城県図書館、内閣文庫、京都大学附属図書館、並びにバチカン図書館に現存する原版本が、その初版本であるとの前提で研究が行われてきた。そのため、バチカン図書館を除く同世界図を閲覧、写真撮影し、さらに『両儀玄覧図』についても、現存している韓国崇実大学校韓国基督教博物館所蔵のものを閲覧、写真撮影した。また、『坤輿万国全図』を模写した日本に現存している彩色模写本『坤輿万国全図』についても、神戸市立博物館や土浦市立博物館所蔵本などを閲覧、写真撮影を行った。 さらには、現存『坤輿万国全図』に関連した、韓国ソウル大学校博物館や中国南京歴史博物院で所蔵する絵入り『坤輿万国全図』を閲覧、写真撮影して、資料の収集に努めた。 以上のような調査を行いながら、現存『坤輿万国全図』、日本に現存する模写本『坤輿万国全図』、朝鮮半島や中国で作製された絵入り『坤輿万国全図』、さらには『両儀玄覧図』の書誌学的検討を行い、それぞれの世界図の相違点を明確にした。これら世界図の中でも特異な存在であるソウル大学校博物館所蔵の絵入り『坤輿万国全図』については論文で発表した。 さらに、こうした西洋式の最新の世界地理・世界地誌が記述されている世界図が中国で出版され朝鮮に流通することによって、朝鮮知識人の世界地理観・世界認識がどのように変化・発展していったのかという点についても検討を行った。その問題については、朝鮮で初めて『坤輿万国全図』を紹介した儒学者李〓光につて研究を行い、論文で発表した。
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