本研究がもっとも中心的な課題とするのは、日本現存明版書の調査と書誌蒐集、およびその公開に向けた知見目録の編纂であるが、この点につき本年度においては、以下のような成果を挙げることができた。まず書誌の蓄積については、刊行書肆の明確な坊刻本、および明代前半の正徳以前刊本を中心に、約350部の書誌調査を行なった。この調査によって得られた資料中には、中国にも伝本が知られていないものの書誌も少なくなく、また昨年度、およびそれ以前に蒐集しえた所とあわせれば、その累積はすでに約1400件に達しており、明代出版史を定量的に分析するための堅実な基礎を築きつつある。また昨年度に行なった金沢市立玉川図書館蔵の漢籍調査については、図版、解説等を含めた目録原稿をほぼ完成しており、来年度に入って図書館当局の予算執行が可能となりしだい、公刊作業にかかる予定である。 このほか、調査によって得られた資料を用いた研究としては、本特定領域の個別研究成果報告として、論文「明末清初の出版と出版統制(前編)」(400字約60枚)を著し、これを総括班に提出した。この論文は明末から清初へと時代が移るにしたがい、明末の出版に見られた商業性、通俗性、実用性、同時代性が著しく低下したことを説明し、その経緯を実例に即して具体的に解明するとともに、そうした現象が生じたゆえんにつき、当時の出版物に現れている文化・出版統制策の影を指摘し、更なる探求への糸口を示した。なおこの論文は、来年度に本特定領域の研究成果として刊行される論文集のうちに、明末清初の文化・出版統制を論ずる後編を加えて収録されることになっている。
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