本年度は、(明)王樵の著作・出版活動を中心に通俗政書・官箴書の問題を考察することにした。王樵は、子供王肯堂と共著の『大明律附例』で有名であるが、本書は王樵が独自に撰した明律注釈書『読律私箋』を本体にしているのであり、事実上王樵の著作と目すべきものである。『大明律附例』は、明律注釈の最高峰であり、学術的著作である。よって本書と通俗政書・官箴書を比較するのが、本年度の研究の中心的な手法となった。 本年度読んだり目を通した主要な史料は以下のとおり。 (1)中心史料 (明)王樵『方麓居士集』(明)王樵・王肯堂『大明律附例』 (2)通俗政書・官箴書、関連史料 (明)貢挙『鐫大明龍頭便読傍訓律法全書』(明)焦〓『新〓翰林標律判学詳釈』(明)傅漢臣『風紀輯覧』(明)『蕭曹遺筆』(明)『詳情公案』(清)『法筆驚天雷』(明)徐渭『徐渭集』 (3)王樵の他の著作、関連史料 王樵『尚書日記』(清)朱彝尊『経義考』 (4)明代出版関係史料 (明)胡応麟『少室山房筆叢』(清)葉徳輝『書林清話』王利器『元明清三代禁毀小説戯曲史料』沈津『美国哈佛大学哈佛燕京図書館善本書志』井上進『中国出版文化史』 (1)によって王樵の生涯、学術についておさえた。ついで、その明律学を(2)の通俗政書・官箴書と比較することによって、両者を特微づけた。徐渭は、通俗書の担い手である下級知識人のあり方を見るためにとりあげた。(3)で王樵の明律以外の学術活動のうち、尚書学を取り上げ、明律学との方法的異同を検討した。あわせ明代の尚書学の動向を、『経義考』によって概観した。(4)で明代の出版活動全体について知見をえた。
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