「清乾隆朝にみる出版の権威性」概要 本稿では、出版が社会に対してもった権威性について検討した。この問題に対して筆者のとる視角は、書籍への評価は著者・発行者への評価と等価であり、むしろ往々にして著者・発行者への評価が、書籍への評価を決していたというものである。 そもそも当時、書籍の出版には多大な経費がかかった。されば、まっとうな書籍を出版するには、当時の大半の出版業者は零細すぎたのであって、それらは、主として資金に余裕のある有力者が自ら出版することになった。このことが当時の書籍に著者・出版者の威信を附与することになる。有力者は、書籍の販売によって利潤を求めたりする必要はない。彼らが出版に求めたのは、社会的威信だった。 しかし始めから社会的威信を有している大官僚なら別であるが、下層知識人にとって出版した程度では、はかばかしい威信はうまれるはずもない。されば彼らは、威信ある著名人から序文をもらうことに腐心した。有名人が書籍にお墨付きを与えることは、とりもなおさず著者自身の威信が公認されたことになった。 同様に営利出版においても、出版業者は著名人の序文を求めた。逆に人的権威が明示されていない書籍は売りにくかった。これらのことは、書籍だけの問題ではなく、当時の社会において一般的に人的権威が人々に行動の指針を与えていたことの反映である。 以上のことを考えるならば、四庫全書は、それまでの学術(著者・書籍)の価値に対する乾隆帝欽定の格付けであった。ここに四庫全書編纂の政治的意味があったことが理解される。
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