前半二年間は、「明清時代通俗政書・官箴書の研究」という課題名で、主として明代における政書の出版について研究した。明代は、政府による出版活動は概して低調であるのに対し、書坊・私人による出版活動が盛んである。そのため本研究では、王樵(1521〜1599)の著述・出版活動を取り上げ、それと対比する形で政府の出版活動について論及した。以上の成果は「王樵の著述出版活動」として発表した。 後半二年間は、「明清時代における政書・官箴書の出版の研究」という課題名で、主として清代における政書の出版について研究した。清代は、一転して政府による出版活動が好調であるのに対し、書坊・私人による出版活動が低調である。その理由を探るため本研究では、出版経費はどの程度かかるのか推定し、 書籍の出版経費=2銭×巻数×部数 なる式を得た。これによれば、出版経費はかなり高価となり、書坊・私人の出版活動の低調化の一因がここにあることが理解された。 一方そのような高額な出版費用を負担できる者は、資金に余裕のある有力者と政府だけとなる。とりわけ清朝中央政府は、出版が支配の手段となりうることを理解しており、18世紀乾隆年間以後、その出版局である武英殿から積極的に書籍を出版・販売した。しかし19世紀半ば以降、各省政府に出版局である書局が設立され営利出版を開始すると、武英殿の役割は低下した。以上の成果は、「清乾隆朝にみる出版の権威性」『東アジア出版文化の研究 調整班(E)出版政策研究』として発表した。
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