研究概要 |
本研究課題のもとに今年度は主としてロシア所蔵のウイグル語文献の研究をおこない、以下のような実績をあげた。 1)ウイグル文『大乗法苑義林章』の研究:7世紀に中国の基によって著された唯識教学の体系を説いた書の断片がロシア所蔵ウイグル文献中にあることを見付け、その転写テキスト、翻訳、注釈を提出した。文献番号SI Kr.I,12.2)ウイグル文字音写された漢文の研究:SI Kr.IV,276とSI Kr.I,125の2断片はウイグル文字で音写された漢文で、内容が「礼懺文」であることがわかった。書かれた漢語の発音形式はいわゆる「ウイグル漢字音」に相当するものであり、その体系について議論した。また、類似のやはりウイグル文字で書かれた漢文がベルリン・コレクション(U5335)にも存在することがわかり、同時に扱った。3)「難字音注」ウイグル文献の研究:断片SI 4bKr.14には5行の漢字列がみられるが、それが『天地八陽神呪経』中の難字を直音と反切で音注したものであることがわかった。その音注の内容を検討した結果、やはり読まれた漢語音が「ウイグル漢字音」であることが判明した。なおこの漢字列に先行するウイグル文は「九悪業」を説いたものであり、転写、訳出をおこなった。これら1〜3は論文「ロシア所蔵ウイグル語文献3」に掲載した。 また、研究課題に関連して次のような研究発表をおこなった:「ウイグル語における漢文訓読」国際ワークショップ「漢文古版本とその受容(訓読)」(北海道大学)「モンゴル仏典におけるウイグル語の影響について」「シンポジウム・モンゴル仏典研究の新展開」(大谷大学)「ウイグル語の印刷本について」東アジア出版文化に関する国際学術会議」(学術総合センター)
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