昨年度に引き続いウイグル語文献の研究をおこない、『ロシア所蔵ウイグル語文献の研究-ウイグル文字表記漢文とウイグル語仏典テキスト-』を出版した。本書は2部に大別されている。第1部ではロシア所蔵のウイグル文字表記された漢文断片10葉を扱った。この10葉はロシア科学アカデミー東方学研究所サンクトペテルブルグ支所に保管されているもので、著者はそれらを整理し、漢文仏典との同定に成功した。さらに言語学的手法をもちいて書かれた漢語の発音形式を再構し、音韻体系を明らかにした。第2部では8本のウイグル語仏典を扱い、テキスト・エディションを提出した。そのうちの6本はやはりサンクトペテルブルグ所蔵の断片で、内容は「大乗法苑義林章」「慈悲道場懺法」「観世音陀羅尼経」「続命経」「縁起聖道経」「阿含経」である。残る2本は以前に一度出版したテキストであるが、修正を加えて再提出した。それらはパリ国立図書館所蔵の「菩薩修行未知」と中村不折氏旧蔵で現在書道博物館に所蔵されている長文の巻子「雑阿含経」である。本書巻末には「ウイグル語-漢語対照語彙」を付した。 本特定研究の主催する国際シンポジウムである「日韓漢字・漢文受容に関する国際学術会議」(2003年7月24・25日於富山大学人文学部)に参加し、研究発表した。題目は「ウイグル漢字音について」(コメンテーター、高田時雄、P.Zieme)であった。
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