研究課題
特定領域研究
カトリック・ミッションの出版物がどのように受け入れられたかの一例として、『廣州通記』という我が國に傳存する一寫本を取り上げた。この寫本がミッションの出版活動と接點を有するのは、それが實はイエズス會士艾儒略の著作『職方外紀』のいわば改編本に他ならないからである。『職方外紀』は享保年間、吉宗によって解禁されるまで長く日本では禁書に指定されており、また解禁以後もそのことが廣く知られなかったため、基本的に寫本によって流通した。しかし世界の地理知識を要領よく提供するこの書物が、鎖国日本において大きな歓迎を受け、廣く讀まれたことは、多数の寫本が現在もなお各處に殘っている事實から容易に推測される。また江戸末期になると大惣のような貸本屋の藏書中にも含まれていることは、時代を追って幅広い讀者に浸透していったであろうことを示している。ところでこの寫本は禁書『職方外紀』を見かけ上、それと分からないように廣州の地方志のごとき名稱にすり替えたものである。さらに細かく見ると、『職方外紀』を基礎とし、それに南懐仁の『坤輿圖説』、黄裳『海語』からの引用を挿入するかたちで作られていることが分かる。とくに序文は艾儒略、南懐仁など宣師の編纂した書物から採らず、黄裳『海語』の序文に手を加えたものを使っているのは、幕府の禁教政策に封する大きな警戒がはたらいているからである。本文を細かく見ても、『職方外紀』中の記述で、「天主堂」や「耶蘇」など些かでもキリスト教に言及する個所は、非常な注意深さで削除したり改變を加えたりしている。、カトリック・ミッションの中國における出版活動は非常に活發なものがあったが、また非宗教的な著作の場合でも宗教弾歴の餘波を蒙ることは不可避であった。それが日本のように極めて嚴格な禁教が實行されていた地域に流通することは、少なくともそのままの形ではあり得なかった。この寫本はそういったミッションの出版活動の限界を示す一例でもある。
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すべて 雑誌論文 (10件)
中外關係史 新史料與新問題(北京・科學出版社)
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漢字と文化(第3號) 3
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History of Sino-Western Relations, New Materials and New Problems
"Kanji to Bunka" (Chinese Character and Culture) No.3
A Life Journey to the East. Sinological Studies in Me mory of Giuliano Bertuccioli (1923-2001)
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A Life Journey to the East. Sinological Studies in Memory of Giuliano Bertuccioli (1923-2001)
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文学 2巻5號
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Bungaku 2-5