東アジアにおける仏典開版の歴史や流布の研究のため、国内外で調査をおこなった。 日本においては、京都大学人文科学研究所、京都大学附属図書館、大谷大学図書館、東京大学東洋文化研究所、東北大学附属図書館、宮内庁書陵部、お茶の水図書館成簀堂文庫等の所蔵本の調査をおこなった。国外においては、北京の中国国家図書館、北京大学図書館、台北の国家図書館、故宮博物院文献館等収蔵の宋・金・元版の漢訳仏典原本の調査をおこなった。 京都大学人文科学研究所所蔵の宋・金・元版仏書67件244巻は、調査を完了し、目録および主要な典籍の解題の作製にとりかかった。 中国国家図書館、国家図書館、故宮博物院文献館等では、南宋刊『妙法蓮華経』十数件のほか、『仏頂心陀羅尼経』十数件、元版『般若心経』などを調査した。 中国・台湾所蔵の南宋刊『妙法蓮華経』には、日本の社寺・図書館に所蔵がない版種も多く、版式や雕造の技量等の調査とともに、経典に付される音義にも注目し、十数種の版本の資料を収集し、比較検討をおこなっている。また中国国家図書館所蔵の元版『般若心経』は、該図書館の目録では標記されていない『仏説仏母経』が付刻されていることが判明した。この『仏説仏母経』は中国撰述の疑偽経典とされ、従来、敦煌遺書中のものが多数知られていたが、刊本は知られていなかった。この刊本『仏説仏母経』の発現は、該経典研究の有用な資料として注目すべきもので、研究をすすめている。 収集した資料および各種目録を参考にして、各地の図書館や研究機関あるいは寺院所蔵の、中国開版仏典所在リストの作成をおこなっており、16年度内に「日本所在中国古版仏典所在リスト(暫定版)」(仮称)を完成させる予定である。
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