本年度は、既存の満洲語書籍目録類を比較検討し、書誌データ収集における問題点の洗い出しをおこなった。また、大阪外国語大学所蔵満洲本の所蔵状況を確認し、書誌データ収集作業に着手した(継続中)。さらに、次年度以降の調査・研究に必要な満洲語関連資料の収集もおこなった。 また、満洲本をめぐる書誌学的研究の個別的事例として、いわゆる満漢合壁という形式についての研究・考察をおこない、その成果を第1回東アジア出版文化に関する国際学術会議において発表した(発表題目:「満漢合壁本における原文と訳文」)。その概要は以下のとおりである:清代中期以降、満洲族の漢化の程度が深まるにつれ、満文の横に漢文を配した満漢合壁という形式が隆盛を極めたが、この形式における満文と漢文の関係について、「三國志演義」の満漢合壁本(雍正年間(1723-1735)刻本)を例にとり、検討を加えた。「満漢合壁三國志」の満文は、順治7年(1650)刻本「満文三國志」を概ね踏襲したものであるが、これは「三國志演義」漢文版本中の嘉靖本を原典として満訳されたものである。一方、「満漢合壁三國志」の漢文は嘉靖本とは異なる漢文テキスト:李卓吾本をもとにしたものである。ところで、嘉靖本に拠った満文と、李卓吾本に由来する漢文は、そのままでは当然内容にくいちがうところが出てくるが、そのような場合、満文には一切手をつけず、漢文の方を満文の内容に合うように改変している。つまり、「満漢合壁三國志」の満文と漢文の関係は、満文が原文・漢文が訳文となっている。この事例は、満漢合壁という形式の性格(満文が原文・漢文が訳文)を端的に示すものであると考えられる。
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