昨年度にひきつづき、大阪外国語大学所蔵満洲本の書誌データ収集、データの整理、デジタル化作業をおこなった(継続中)。また、東洋文庫等の他機関に所蔵される版本との比較対照作業もおこなった(継続中)。さらに、中国遼寧省図書館所蔵満洲本図書目録など、最近公刊された満洲本カタログについての分析・検討を実施した。また、平成14年12月提出研究成果報告論文「満漢合璧本における原文と訳文」を執筆した。その要旨は以下のとおりである。 清朝なかばを過ぎると満文の横に漢文を付したいわゆる満漢合璧という形式が種々の出版物におこなわれるようになった。本論文は、この満漢合璧という形式につき、とくに原文と訳文という観点から検討・考察を加えたものである。清代の出版物において、ひとつの書籍の中に満文と漢文を同時に掲載するしかたには、いくつかの形式が見られるが、まず、それらを、満文と漢文それぞれの「行送り」という点に着目して整理をおこなった。そして、それら行送りの類型が当該書籍における満文と漢文の関係、つまりいずれを原文とし、いずれを訳文としているのかということと関連しているのではないかという仮説を提唱した。次に、それら類型のうちから満漢合璧形式をとりあげ、雍正年間刻本の満漢合璧『三国志』の満文と漢文の関係について考察した。本書における満文は、順治7年(1650)刻本『ilan gurun i bithe(満文三国志)』を概ねそのまま踏襲したものであり、ほとんど改変を加えた形跡がないが、漢文のほうは、三国志演義の李卓吾本をもとにしつつも、満文の内容に合わない部分に関しては大いに改変が加えられている。これは、満漢合璧という形式においては、満文が権威を持つた不変の原文であり、一方漢文は随意に改変しうる訳文であることを示すものであると考えられる。
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