1.『羅葡日対訳辞書』諸本の書き入れ キリシタン版『羅葡日対訳辞書』(1595年刊)の現存する諸本で、現在所在が確認されているものには、オックスフォード大学本・フランス学士院本・ライデン大学本・ロンドン大学東洋アフリカ学研究院(SOAS)本の四本がある。そのほか、現存不明の北堂文庫本二部のうち一部は、1951年に影印が刊行されている。これらには、印刷された辞書本文に対して共通の書き入れが三十箇所以上見られる。また、版本を写したアジュダ図書館本、版本のポルトガル語部分を省略した『羅日辞書』(1870年刊)についても、もとになった版本は散逸したと思われるが、現存する版本の書き入れされた後の状態と同様になっている箇所が多い。このことは、辞書が印刷されたあと各地に分散しないうちに、ある程度まとめて書き入れが行われた可能性を示唆している。 2.カレピーノ諸版と『羅葡日対訳辞書』の比較 『羅葡日辞書』は、当時ヨーロッパで印刷されたラテン語と各国語の対訳辞書「カレピーノ」を原典としている。数多くの版のあるカレピーノの中から原典を特定することは困難であるが、各国の図書館に所蔵されている異なる十五の版のカレピーノと「羅葡日辞書』を比べたところ、「羅葡日辞書』の編者は原典をそのまま引用したのではなく、見出し語の抜粋・追加・順序の変更、ラテン語で書かれた説明文の改変などを行った可能性が高いと考えられ、日本版カレピーノである『羅葡日辞書』の独自性が明らかになりつつある。
|