1.『羅葡日対訳辞書』の原典 キリシタン版『羅葡日対訳辞書』(1595年天草刊)は、当時ヨーロッパで数多く出版されたラテン語辞書「カレピーノ」をもとに編纂されたというが、これまで原典となったカレピーノの版は特定されていない。史料によると『羅葡日辞書』の編纂作業は1581年ごろから本格的に始まったようであるが、『羅葡日辞書』と16世紀後半ごろ出版されたカレピーノ諸版を、見出しのラテン語及び見出しに付されたラテン語文から比較したところ、『羅葡日辞書』の原典には、1570年リヨン版に始まる一群のリヨン版の系統が用いられた可能性が高いことが明らかになった。しかし、『羅葡日辞書』は原典のラテン語を抜粋・改変し、ポルトガル語と日本語を付した抄訳本というべきもので、同時期のヨーロッパの諸版と比べてカレピーノとしての独自性が極めて高い。 2.ブレラ国立図書館本『日本のカテキズモ』 A.ヴァリニャーノ著『日本のカテキズモ』(1586年リスボン刊)の諸本は、これまでリスボンに三本伝存することが知られていたが、今回新たにミラノのブレラ国立図書館に所蔵されている一本が確認された。ブレラ本は、見返しや本文欄外などに内容に関するとみられる書き入れが多いことでも注目される。 3.シーボルトの日本語研究 フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの日本語に関する唯一のまとまった研究は、来日1、2年後の著作と考えられる「日本語要略」(1826年刊)である。この論文は、C.P.トゥンベリなどの先行研究を参照しながら、周辺の日本人の助けを借りて執筆されたものとみられ、不十分な点も多く見受けられるが、発音について書かれた章にはシーボルト独自の指摘もある。
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