個別研究実績として、地誌も含めたベトナム前近代史史料の保存状況を、先行研究や書目、書籍管理当事者からの聞き取りから整理し、阮朝成立期から現在に至るまでの公的機関による史料保存の変遷をまとめて論文とした。一方、『大南一統志』に関しては継続して人物志を中心に、諸写本と版本との照合作業を行い、ほぼデータ化は完了した。しかし、仕上げとして、諸写本の原本と思われる旧阮朝王宮所蔵本を調査すべく、冬季休暇中にホー・チ・ミン市の第二国家公文書館に赴いたところ、海外研究協力者からの情報とは異なり、漢文史料はすべてハノイの第一国家公文書館に移管されているとのことであった。手続き変更に2週間以上かかるため、今回の調査では第一公文書館はあきらめ、ホー・チ・ミン市の社会科学院図書館所蔵史料を調査したところ、旧南政権下で刊行された対訳式『大南一統志』の漢文部分の原本と思われる史料を発見した(ただしほとんどは日本の東洋文庫所蔵本の写真複写版である)。第一国家公文書館所蔵の漢文史料は今のところ未公開で、書目も公開されておらず、閲覧そのものが困難ではあろうが、来年度の調査に期したい。 特定領域研究全体への貢献という面からの実績として、前任の大阪外国語大学に奉職していた頃より断続的に行ってきたベトナム語研究雑誌の目録作成を再開した。まず『漢喃研究』とその前継雑誌『漢喃雑誌』の総目録(創刊号より2002年最終号まで)を作成し、冊子として研究報告書の形で刊行した。さらに自己の研究機関である広島大学大学院文学研究科東洋史研究室のHPから、電子史料の形で自由に閲覧、ダウンロードできるようにした。続いて『歴史研究』も同様に作成したが、掲載論文の数が多いため、こちらは電子史料の形でのみ公開している。更に、作業が済み次第、逐次『文・史・地』『考古学』『民族学』など、関連雑誌の目録も公開する予定である。
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