2001年より文献学的研究の遅れているヴェトナムの地誌のひとつ、『大南一統志』の研究を開始した。3年半を費やしてヴェトナムに存在する写本を収集し、2002年春に科研研究会で予備発表を行った後、2004年7月に第2回ヴェトナム学国際学会(於ホーチミン市、7月14-16日)で学術発表(発表題:「『大南一統志』-文献学からの考察-」(ヴェトナム語))を行い、更にハノイの第一国家公文書館でホーチミン市の第二国家公文書館から移管された『大南一統志』の閲覧を許可され、人物志を中心として情報の収集を行った。その結果、残念ながら嗣徳時代の原稿本はやはりすでに散逸し、第一国家公文書館にあったものも比較的新しい写本であることが判明した。 帰国の後、今まで集めた情報をもとに、上述の国際学会での発表原稿を大幅に改稿して、科研最終報告論文「『大南一統志』の編纂に関する「考察」を完成させた。結論として、現存する多くの写本はかなり相互に親縁性が見られ、嗣徳時代の原稿本がおそらくその元であること、維新時代の版本『大南一統志』人物志は、写本の情報を引き継ぎつつも、新しい情報に基づいて多くの人物を加えて掲載しているが、その一方で抹消された人物も存在すること、既にフランス植民地支配下にあるという条件の下で編纂されたにもかかわらず、抗仏戦争の人士を採録するなど「王朝ナショナリズム」ともいうべき性格を帯びていることなどが導き出せた。 特定領域研究全体への貢献という面では、ヴェトナム語学術雑誌の目録作成を継続し、2003年発行分までの『漢喃研究』『歴史研究』『文・史・地』『考古学』『民族学』の全論文目録を作成し、広島大学大学院文学研究科東洋史学研究室ホームページ<http://home.hiroshima-u.ac.jp/orient/yao.html>上に公開した。
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