本年度は、特異な通書である『玉匣記』について書誌的観点から、「玉匣記の沖縄流伝」と題して今までの研究をまとめた。この論文は三章に分かれ、第一章・序説では、広く通書なるものについて筆者自身の知見を整理しておいた。通書は具注暦が原点であり、暦書から拡大展開したというその素姓上、両義的な性格を備えており、目録の中にはその扱い(分類)に混乱が見られるものもあることも指摘しておいた。第二章「玉匣記の成立と展開」では、明代の『続道蔵』に始まり、民国(更には現代)に至る展開と流通を跡づけた。ただ、現時点で筆者は明刻本の存在を確認しえていない。明版『玉匣記』は本当に湮滅してしまったのか、今後も探書を続行するつもりである。なお、調査の過程で見出した彩色図像入りの特異な江戸写本(大同薬室文庫本)についてやや詳しく紹介し、この底本の明刻本の可能性に言及しておいた。第三章「玉匣記の沖縄流伝」では、『玉匣記』の沖縄での流通を跡付けた。『玉匣記』は日本(ヤマト)では殆ど利用されなかったが、南島、特に沖縄では活用され、現存する七種の沖縄流通本はすべて同版であることを立証した。 本年度の活動としては他に、国内外の漢籍所蔵機関に赴き、前年度に引き続いて通書や日用類書や占術書の調査を行った。国内としては、国会図書館、内閣文庫、東大図書館、東北大図書館、龍谷大図書館、海外では、上海図書館、河南省図書館などに足を運び、少なからざる資料を収集した。
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