『四書集注』に関する書誌学的研究の成果として中華民国国立編訳館主編『新集四書註解書提要』などが刊行されたが出版文化史的読者論的視点がない。13年度に『四書集注』出版の経緯について明らかにしたので14年度は『四書集注』の最大の衍義書である『四書大全』、最大の批判者であった王陽明の『四書』理解を『大学』に焦点をあてて、『四書集注』受容論読者論にまで解明を進めて、『四書集注』の文化史的意義を考察することにより、中国・日本の出版産業に出版政策に与えた影響の根源力を考察する基礎的成果をあげた。吉田は王陽明の「立志説」「大学古本序」「親民堂記」「大学問」を朱子の『四書』理解と対比しながら丁寧に読み解き、朱子の『四書集注』が提示した思考の枠組みが王陽明に深く浸透していることを明らかにして、『四書集注』の世界が中国の哲学者読書人出版界を魅了した秘密を開示した。また、日本の各藩各書肆が木版印刷していた『四書集注』及び関係書を実見調査した。三浦は『四書集注』が科挙体制に浸透していく元朝思想界の中で「心学」がどのように展開したのかを綿密に解析して『中国心学の稜線-元朝の知識人と儒道仏三教-』を著した。元代は『四書集注』の衍義書が数多く執筆され、その成果が明代初期の『四書大全』に結実していくので、中国における『四書集注』の出版にまつわる基幹条件を明らかにしたことの意義は大きい。科挙制度がなかったにも関わらず日本では『四書集注』が熱心に読まれたのは知識欲に応える内容があったからである。出版政策を読者論と絡めて解明することが緊要である理由である。
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