研究課題である「日本における『四書集注』の周辺」を明らかにするには、『四書集注』版行の事実を明らかにすることが歴史研究の王道であるが、『四書集注』が中国・朝鮮・日本の近世期近代期において熱烈な読者・購読者に恵まれたのはその内容が豊かであったことが前提となる。広義の読者論の基礎としての『四書集注』論を朱子の注釈そのものの内、『論語集注』『中庸章句』について、あるいは、『四書集注』の言説に関する王陽明の朱子批判を媒介にして、明らかすることが出来た。また、特に石門心学の流れに属する鎌田柳泓の『中庸首章講義筆記』を取り上げて町人・商人階層の社会に向けて石門心学グループが『四書集注』の中でも抽象度の高い『中庸章句』を話術を駆使して平易に説き聞かせている姿を具体的に解析することが出来た。所謂専門の儒者の儒教「神学」の神義論ではなくして、日常倫理の導きとして『四書集注』が社会的に機能していたことは『四書集注』が広範な支持者を得ていたことを如実に物語る。『孟子集注』『大学章句』の内容解析を十六年度に行って、『四書集注』論にまとめること。さらに象徴的な具体的な読まれ方を解析して「日本における『四書集注』の周辺」事情を出版政策絡みで明らかにすることを目指すことにしたい。 尚2004年1月9日に東洋大学を会場にして、「出版物の研究班」「出版政策研究班」の合同研究会が開催された。二班以外の研究者の参加者を含めて約三十名が研究発表を行い白熱した討論がなされた。傍聴者を含めると参加者はほぼ百人の盛会であった。
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