「満洲」「満洲国」における出版事象を、その地域の出版文化政策を前提とし、資料の刊行から集積、保存・利用および戦後中国側接収以降の現在的所蔵状況までの総過程として位置付け、戦前期日本支配下時期の中国での出版文化を、明暗ともに明らかにすることをその目標とし、以下の成果をあげた。 (1)これまで取り組まれることのなかった「満洲」「満洲国」時代の出版法制や出版流通体制について、当時の新聞(マイクロ版)や基本諸年鑑などを精査することによりその概要を明かにした。 (2)東三省訪書旅行により、日本支配下「満洲」において出版、所蔵されてきた日本語資料が、現在中国の大学図書館や省市図書館にて、どのように所蔵されその検索ツールズや目録、コンピュータ検索などいかなる実態にあるかを現地調査し、東三省現存日本語資料を「共有資源」として利用するための基礎作業を行った。 (3)外交史料館保存起案文書や『満洲日日新聞』の調査により、「満洲国」での文化政策および文化活動を解明する作業をおこなった。 (4)当時の東洋学研究者たちが深く関与した「日満文化協会」「満日文化協会」の創設から解体までの全活動を、主として出版事業の側面から明らかにできた。 (5)満鉄図書館・満洲国各部署資料室・国策企業資料室など「偽満時期」文化諸団体や資料集積機関の概要を解明し、「遺された蔵書」の行方を現地調査して、戦前期各蔵書目録の有無なども含めて一覧化し、それら資料群の敗戦から現在にいたるまでの所蔵変遷の概要を明かにすることができた。 以上のことにより、これまで空白領域であった「満洲」時期の出版政策および出版活動研究への足がかりを作ることができたと考える。また今回、現地中国の「遺された蔵書」の所在調査など書誌学的な研究により、今後の東アジア出版文化の各領域の研究にあたっても資料調査などの面で大いに寄与できるものと考えている。
|