本研究は、日本近世における村落社会への出版文化の普及のあり方を明らかにしようとするもので、今年度は以下のような成果をあげた。 1、摂津国南野村在村医笹山家蔵書および蔵書目録のデータベース化 笹山家は在村医として、約800点の蔵書を有していたが(約半数が医学書)、同時に1740年代と考えられる「蔵書目録」が存在する。これらの蔵書の整理・目録化、および「蔵書目録」との照合をおこなったデータベースを完成させた。 2、論文「三都と地方城下町の文化的関係-書物の流通を素材に-」 これまで、横田は上記笹山家をはじめ大阪周辺村落社会をフィールドに書物普及の実態を明らかにしてきたが、本論文では、福岡藩儒者貝原益軒の書簡を素材に、地方城下町の本屋の形成、地方読者へ書物を取次ぐ藩儒の役割、さらに下総国佐原の在郷商人伊能家や甲斐国下井尻村長百姓依田家などの事例研究もあわせ、武士の参勤交替、百姓の西国巡礼などによって三都の本屋との関係ができることを示した。近世社会確立期である1700年前後において、三都で出版された書物がこのような形で全国的に流通する構造があったことは、元禄文化=町人文化論のみならず、そのような知の普及をふくみこんで成り立つ近世の支配をどのようにみるべきかという問題を提起していると考える。
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