本年度の個人研究では、従来からの科挙資料や類書とともに、書物の形を成していない印刷出版物(いわゆる一枚刷)への検討を新たに開始した。これに関しては、北京図書館出版社の『故紙堆』の入手と、中国・北京での現地調査によるところが大きい。すなわち、中国において、文書資料の存在がきわめて少ないことは、いわば常識化しているが、たとえば、北京図書館出版社から2003年に出版された『故紙堆』を取りあげると、そこに収録されている、社会、経済、宗教、民俗などにかかわる「紙」類(その多くは、いわゆる「一枚刷」のものである)は、たとえその作成された時期が、清朝後半や民国といった時間的に新しいものであっても、こうした現物資料は、各時代の文献を読解、利用していく際に、有益な材料になりうる。また、同書のような図録が出現した背景として存在する、最近の中国における古物市場の盛況について、北京における現況を、潘家園、報国寺の場合を中心に調査し、紹介した。なお、この種の資料についての調査の成果については、一般向けの雑誌での執筆原稿においても、紹介をおこなった。 また、所属する班に限らず他の班の開催する研究会にも参加するとともに、11月に仙台でおこなわれた本研究開催の国際学会にも参加し、東アジアにおける印刷文化についての研究情報の収集に努めた。なお、関西在住の本研究参加者有志による共同調査は、本年度は、京都国立博物館、大谷大学博物館所蔵の資料について、各1回おこなわれたが、いずれの調査にも参加した。その他、関連する分野の他の研究参加者とも連絡をとり、試料情報の交換など、情報の共有化を目指した。
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