本研究では、中国近世の知識人と出版というテーマを、次の角度から研究することとした。 (1)『新刊類編歴挙三場文選』を中心とした科挙資料の調査、(2)日用類書、とくに『事林広記』の研究、(3)善書とその出版、(4)石刻資料と石刻書の出版これらの中には、この4年間にいくぶんなりとも前進したものもあるし、準備は進めたものの形を成すに到らなかったテーマもある。 (1)科挙資料に関しては、筆者のこの4年間の仕事としては、資料調査や収集の面では進展が見られたものの、公刊した成果としては、2004年春に自著を出版するにあたって、旧稿を再検討するにとどまっている。元朝の科挙そのものに関しては、従前からの明清地方志における元朝科挙資料についての調査収集を継続し、発表を準備中である。(2)『事林広記』については、当初の計画にあった明刊本よりも、和刻本の検討が中心になったが、他本との差異から、元朝時代の出版と社会の問題や、類書と先行文献との関係について、新知見を得ることができた。(3)善書については、漢民族独自の民俗である「惜字」と出版との関係に注目し、資料の収集をおこなったが、成果の取りまとめには至っていない。(4)石刻については、北京、曲阜などの地域における元朝石刻の従前の整理を増補し、地方志所収の石刻資料についての目録化を進めつつある。 ところで、この4年間に新たな関心の対象となったものに、「一枚刷り」への印刷出版文化研究の範囲の拡大とその資料としての利用についての検討がある。土地契約書、護符、税金の領収書などの一枚刷りの印刷物は、これまでの出版文化史研究においては関心の対象となることは少なかったが、古文書の現存が限定的である中国においてはその資料的価値は少なくなく、今後の進展が期待される。
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