研究概要 |
1)ラットの尿中排泄には性差があることが知られているが、その分子的な詳細は明らかになっていない。本研究で用いた薬物(taurocholate, dibromosulfophtalein, zenarestat)のいずれの化合物についても血中濃度はさほど性差がない一方、腎排泄は雌が雄よりも顕著に大きかった。Zenarestaをモデル薬物として用いて薬物速度論解析を行った結果、再吸収過程に性差があることが示唆された。既知有機トランスポータ-の発現量を、雌雄で比較したところ、Oatp1,Oat2,Oat3に性差が見られた。雌の腎臓では、Oatp1の発現がmRNAレべル、蛋白レベルで見られなかった。一方、Oat2は雌の腎臓で発現していた。Oat3は腎臓の発現には性差が見られなかったものの、メス肝臓には発現していなかった。Oatp1は有機アニオンの肝取り込みにも関わるトランスポーターであり、尿中からの再吸収過程にシンクロナイズして、脂溶性の高い化合物の尿中排泄を低下させているものと考えられる。 2)肝腎の振り分けの第一ステップとなる取り込み過程に関わるトランスポーターの基質選択性を比較し、肝腎の組織分布を決めるにあたり、重要な役割を果たすトランスポーターを明らかにすることを最終目標とした。既に腎側底膜に局在する有機アニオントランスポーターOat1,Oat3の遺伝子発現系と腎臓から調製した腎スライスを用いた研究により、Oat1が比較的低分子で水溶性が高いp-aminohippurateを、Oat3がpravastatinの取り込みに関わっていることを明らかにしている。この両有機アニオントランスポーターに焦点をあて、両トランスポーターの基質選択性と肝移行性を比較した。Oat1,Oat3を用いて輸送実験を行ったところ、pravastatin, ochratoxin A, temocaprilatなど肝臓へも分布する薬物の腎取り込みは、Oatl3により大部分説明できることが明らかとなった。現在、肝臓への組織取り込みクリアランスとの比較を行っている。 3)Capecitabineは、5-Fuのプロドラッグであり、最終的に5-Fuとなるまでに3段階の活性化を受ける。dose-limiting toxicityである消化管障害と抗癌活性の支配要因を明らかにするために、生理的な薬物速度論モデルを構築した。その結果、癌細胞での活性化及び消失、更には癌細胞における血流であることが明らかとなった。
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