研究概要 |
酵素などのバイオキャタリストを、ある一定方向への反応の流れを作る分子素子と捉えると、その阻害剤が存在するという情報は、反応の流れをせき止める作用を通じて信号増幅されることになる。また、この阻害剤とバイオキャタリストとの親和性に対し、外部環境とシンクロナイズした変調をかければ、外部環境の制御を介した活性の制御が可能になると考えられる。低温では膨潤し、高温では収縮するN-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)ゲル中に酵素ペルオキシダーゼを導入したバイオキャタリストゲルは、過酸化水素還元活性を持ち、電極上に固定することにより、その反応速度を還元電流として観測できる。ゲルが膨潤した低温に比べて、収縮した高温では、この電流が大きく減少し、温度を変化させることにより、ペルオキシダーゼの活性を制御できることがわかった。4-アゾベンゼン安息香酸(ACA)や4,4'-アゾベンゼン二安息香酸(ADCA)は光学異性化活性である一方、安息香酸はチロシナーゼの活性を競合的に阻害するため、これらを利用した光によるチロシナーゼの活性制御を行った。チロシナーゼによるチロシンをメラニンに酸化する反応を分光学的に測定したところ、シス-ACAによる阻害作用は、トランス-ACAより大きいことがわかった。また、ACAを加えた溶液に上記の紫外光や可視光を照射してACAを異性化させることにより、チロシナーゼの活性を可逆に制御することができた。また、ADCAの場合はACAとは逆に、トランス体による阻害作用の方がシス体より大きいことがわかった。
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