巨大アメーバである粘菌変形体は、能動素子としての結合振動子集団系である。このような系に外部から刺激を加えると、その部位の振動子が影響を受け、その情報は他の振動子集団へ伝播し系全体としてシンクロナイズし、個体としての運動に至る。しかしながら、このシンクロナイゼーションは数周期という短時間(数分)の過程であり、その挙動の詳細を調べることは難しい状況にある。本研究は、微小変形体の集団系を構成し、それらが次第に結合しネットワーク化していく過程を長時間(6-7時間)調べた。これはシンクロナイゼーション過程の時間スケールを拡大したことに相当している。変形体集団系をセットしてからそれぞれの挙動をスペクトル解析した結果、初期から中間過程では変形体集団のスペクトル強度分布はガウス型であるが、最終過程ではそのズレが大きくなってくることが分った。スペクトル強度分布より得た分布幅の逆数(すなわち系のダイナミクスに関わる特性時間)と積分強度或いはピーク振動数は、初期過程では各振動子がランダムに成長し、周縁部が接触する程度の弱い結合部を徐々に増加させながらシンクロナイズしていく過程であり、中間過程では、弱結合状態に局所的な強結合(これは太い糸状の繋がりを通して原形質流動による物資輸送がおこなわれる)が加わりシンクロナイゼーションが乱され積分強度が減少するが、最終過程では、系の大部分が急激に強結合のネットワークを形成し、振動子間の相関時間が長くなり振動子集団の引き込み、シンクロナイゼーションンへ至ると解釈された。
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