典型的なアメーバであるAmoeba proteusの一見ランダムな運動の基本的特徴を調べるために、proteusを無刺激の等方的環境下で運動させ低倍率の顕微鏡下でCCDカメラにより500-1000秒間観測し、その挙動をコンピュータに取込んだ。これらを画像処理して二値化し、運動を特徴づけるパラメータとして重心軌道を求めその軌道上の移動変位(速度)及び軌道角度変化を抽出し、時系列解析を行った。その結果、速度、角度変化のヒストグラムはガウス分布にフィットすることが分った。これより、アメーバ運動に対する二次元系での簡単な運動方程式を基にアメーバ移動の駆動力を数pNと評価した。これはアクチン-ミオシン系の滑り力と同程度であり、細胞内に見られるアクチン繊維が運動に関っていることを示している。更に、速度と角度変化の相互相関を調べこれらの間に負の相関があることが分った。これは、遅い速度のときは軌道角度を変えて環境探査をし、角度変化が小さいときは速度が大きいというアメーバが一見ランダムな運動をしながら生物としての合理的特性を持っていることを示唆している。一方、運動モデルのシミュレーションは負相関性を再現し、二次元運動系特性の反映であることを示した。しかし運動モデルが短時間の相関時間しか持たないのに対し、アメーバ運動における速度と角度変化の相関関数は長時間相関を持つ非マルコフ性を示し、モデルで一定とした駆動力に長時間相関があることが推定され今後の課題となることを明らかにした。
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