研究概要 |
熱不可逆で,耐久性が高いことが知られているジアリールエテンの光環化する炭素上に,不斉炭素を含む置換基を結合させることにより,ヘキサトリエン部にアリリックストレインを発生させることができた。その結果,トルエン中における光環化反応に伴って,すでに存在する不斉に誘導されて,新たな不斉が94/6の比率で選択的に生じることがわかった。用いたジアリールエテンは,1-[2-(1-methoxymethoxy)ethylbenzo[b]thiophen-3-yl]-2-(2-methylbenzo[b]thiophen-3-yl)hexafluorocyclopenteneである。この化合物は,ヘキサン,トルエン,酢酸エチルなど,極性の異なる様々な溶媒の中で,同程度の高い不斉選択性を示した。また,光反応に伴って,比旋光度,CDスペクトルなど,キロプティカルな性質も可逆的に変化した。 しかし,methoxymethoxy基の替わりにt-butoxy基を持つものの不斉誘起は,例えばトルエン中では65/35と低く,methoxymethoxy基の場合と考え合わせると,単なる立体障害だけでは説明ができない。これは,methoxymethoxy基の二つの酸素原子と,ベンゾチオフェン環のイオウ原子の静電反発も寄与していることによって説明できる。 また,methoxymethoxy基の化合物の開環体についてX線結晶構造解析を行った結果,当初の予想通り,アリリックストレインが働き,望ましい立体配座を取っていることがわかった。
|