研究概要 |
薬物の経口吸収や異物排泄に関わる小腸上皮細胞の種々トランスポーターと薬物代謝酵素に着目して、薬物処理や栄養条件の変化による各遺伝子の発現変動を定量的に解析した。 現在までにヒト小腸における薬物の膜透過を評価するin vitroモデルとして最も汎用されているCaco-2細胞において、PEPT1の発現はクエルセチンにより増加する傾向が見られた。MDR1はall-trans-レチノイン酸を添加した場合に発現量が顕著に上昇した。低グルコース条件でもMDR1の発現は上昇した。CYP3A4の発現は、L-リジンやアスコルビン酸,all-trans-レチノイン酸を添加した場合に上昇する傾向が見られた。核レセプターSXRのリガンドであり、SXRを介してMDR1とCYP3A4の発現を誘導することが知られているリファンピンやパクリタキセルは、両遺伝子を誘導しなかった。しかし、同じく消化管由来のLS180細胞においては、両薬物はいずれもMDR1とCYP3A4を誘導した。両細胞におけるSXRの発現をRT-PCRにより検討したところ、LS180細胞ではSXRの発現が見られたのに対して、Caco-2細胞には発現が見られなかった。all-trans-レチノイン酸によるMDR1の発現誘導はCaco-2およびLS180のいずれの細胞でも観察されたことから,all-trans-レチノイン酸による発現誘導はSXRとは異なる経路を介したメカニズムによる現象であると考えられた。 本研究より、Caco-2細胞は薬物の消化管吸収性を評価するのに繁用されているが、SXRを介する発現誘導を目的とする実験系としては適切ではないことが明らかとなった。薬物投与による遺伝子発現変動は,今後薬物動態を解析する上で重要な情報であるので、in vivoにおける併用される薬物によって誘導される発現変動を適確に反映するin vitro実験系を新たに確立する必要があると考えられた。
|