研究概要 |
ポリピロールフィルム(長さ35mm,幅5mm)に直流電圧を繰り返し印加したときの伸縮挙動を調べた。フィルムの伸縮はてこの原理を応用した装置を用い,ビーム末端の位置変化をレーザー変位計で測定している。2Vを30秒電圧印加することによりフィルムは約0.9%(0.32mm)収縮し,これが可逆的に起こることがわかった。伸縮率は溶液中でのドープ・脱ドープによる値と同程度であるが,フィルムの伸縮は空気中で起こり,電解液や対電極,レドックスガスは不要である。さらに長時間電圧印加したときのフィルムの伸縮挙動.電流値,表面温度およびフィルム近傍の湿度変化を調べたところ,フィルムの収縮率は数分でほぼ一定(1.2%)になった。このときの電流値は50mAであり,フィルム表面温度は25℃から32℃に上昇する。興味深いことに,電圧印加によりフィルム近傍の相対湿度が急激に上昇することがわかった。これはフィルムに吸着している水分子が電圧印加によって吐き出されたことを意味している。一方,電圧を切つた直後に相対湿度が急激に減少するのは,周囲の空気中から水蒸気がフィルムに再吸着するためと考えられる。長時間の電圧印加により相対湿度が低下するのは,フィルム近傍の温度が上昇したためである。実際,電場下における絶対湿度は時間とともに元の値まで回復する。ここで,電圧印加による湿度変化とフィルムの伸縮挙動がよく一致していることから,フィルムの収縮が水蒸気の脱着に基づくことがわかる。このように.ポリピロールフィルムは電圧のオン・オフに応答してあたかも呼吸をするかのように,水蒸気を吐いたり吸ったりして伸縮するというユニークな性質をもつことが明らかになった。これに対し,真空中において電圧印加によりフィルムが逆に伸びるのは,高分子鎖の熱膨張によるものと考えられる。これらの結果から,空気中におけるフィルムの電気収縮メカニズムは次のように考えられる。まず始めに,フィルムを空気中に放置すると吸湿により体積は膨張する。電圧印加によるジュール加熱によりフィルムはわずかに熱膨張するが,高分子鎖上に吸着している水分子が熱を吸収し脱着するためにフィルムは収縮する。ここで,印加電圧が低い場合は脱水による収縮が支配的であるが,印加電圧の増加とともに熱膨張の寄与が大きくなる。その他にも,電圧印加によるポリピロール鎖の構造変化や水分子との相互作用変化なども考えられる。
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